腕前
私の写真家としての活動は困難を極めた。
さっきは道路に積み上げられ陽光を浴びてはまばゆく光る、真っ白な雪を激写してきた。
目を射るような純白。
積雪地帯の人や怪我した人なんかには申し訳ないけど、雪って本当に綺麗だなと見とれてしまう。
特にこんなにハンパない大きな塊は、大阪でも見たことがない。
でも足元に広がるじゅくじゅくの道路は陰鬱だ。
長靴を履いてなかったら、惨めな濡れ猫か捨て犬みたいになるところだ。
無邪気に子どもたちが遊ぶ。
パウダースノウを歩かないで!おかげで雪掻きが難航したやんけ!とドヤしつけたくなる。
でもお子ちゃまは、どう?可愛いでしょ?とばかりに耳元に三つ編み状の毛糸を垂らしたニット帽をかぶりご満悦に微笑んでいる。
雪ん子気取り。
生憎、わたしは子どもが大大大嫌い。
でも、やはりここは文明社会でわたしは女性だから、社会的ジェンダーの期待に沿ってにっと笑顔を返す。
もはや義務、もはや苦行。
それより、そうだ、写真だ。
彼に早速見てもらった。
同棲相手だから、私のすべてを包み隠さず知ってほしいのだ。
今現在のわたしのレベルおよび写真家として未知数である可能性を、忌憚ないご意見を聞かせてください。
「率直なお気持ちをお聞かせ願いたい」。
私は居住まいを正して、彼に問う。
返事がない。
ようやく彼が重い感じで口を開いた。
雪ってさ、大変だけど景色としてはいいもんだねとか、一般常識を語りだすときた。
そうじゃない。
聞きたいのは私の写真家としての腕前。
にしても、彼はいったい何しに来たんだろう?。
口を開けば分別でむせ返るほどの御小言が始まる。
まるで娘を心配する厳格な父親気取りだ。
これには「参りました」と言うしかないんだろうか。
まあ、肩コリおよび筋肉痛は揉み解してもらったけど、それが主目的なんですか?。
意味不明な謎に満ちた人物だ。
わたしは、今一度うっとりと自分で撮った美しい雪景色を眺める。
すると、なんていうことでしょう。
ベストショットの一枚に、ジャージ姿にへっぴり腰でシャベルを握ったオヤジがばっちり映りこんでいる!。
仕方ないから、題名はこれだ。
「役者たちの腕前が落ちました」。