朝からおおはしゃぎ
それは婚礼の朝だった。
彼と初めて旅行に出かけた。
妻子からも仕事からも逃げ出した彼は清々しい解放感を若い女の子、つまり私と共有するのだ。
明け方、もぞもぞと大きな物体がベッドにもぐりこむ気配がした。
嬉しそうに瞳をきらきら、少年のように輝かせる男。
着ていたわたしの浴衣はとっくに剥がされていた。
わたしは低血圧で、朝が苦手だ。
「起きられない~」寝ぼけまなこで、この闖入者を迷惑がる。
すると彼は「起こしてあげるよ」と、始める。
まるで思春期過ぎの少年のように性急だ。
「いやあ、女性の浴衣って大好きなんだよね」。
終わると、嬉しそうにベッドに乱れ落ちたわたしの浴衣を拾ってくれる。
床に落ちたのに。
新しいものと変えてくれる機転はないのだ。
そんな風に思いながら、彼の並々ならぬはしゃぎ様をわたしは見つめた。
この1泊2日、わたしは完全に彼のもの。
婚礼から一夜、朝を迎えた新婚さん。
朝からわたしを征服した彼は、気分も爽快だ。
今日はホテルに隣接した遊園地に行く予定だ。
遊園地!。
内心で悲鳴があがる。
そんな浮かれた気分にどうしてなれましょうか?。
でも、わたしは頑張った。
ジェットコースターではきゃあと悲鳴をあげ、ティーカップでは彼の好きな極上の微笑みをつくった。
お腹のいっぱい足りた子どものように、にっこりと。
彼はよくわたしに言った。
「にこってして。そんな悲しそうな顔しないで」と。
そのリクエストにこたえると、愛おしげに頭を、髪を撫でる。
所有を示す大きく慈愛に満ちた手。
これを払いのけたら、どんな空気になるのだろう?
彼に逆らったことは、一度もないのだから。