今更初恋
もうすぐ二十歳になる私。いまだに恋という恋をしたことがない。
こんなこと、友達にも言えなくて、とりあえず芸能人に抱く感情とかを持ち出して、勝手に想像して会話を合わせてきた。
さすがに、彼氏がいるという嘘まではつけないから、そこは20年間彼氏なしというレッテルを仕方なく暴露してきた。
今日、いつもの花屋さんに寄って、いつも通りおばあちゃんのお見舞い用の花束を物色していると、「君に寄り添います。」突然真後ろから声がした。
驚いたというよりも、その心地いい声に体の芯から熱くなる感じに酔いしれ、はっと後ろを振り返ると、すらっと背の高い短髪の少し年上ぐらいの男の人が立っていた。
花屋のエプロンをしている。新しい店員さんだろうか?
「その花の花言葉ですよ。どういった花をお探しですか?」
本当に彼の声は素敵で、いや、もちろん見た目も優しそうで、花屋にいても全然違和感のない好青年だった。
私は、お見舞いであることを伝え、明るい花束を彼に作ってもらった。
それから週に2回は通う花屋で、私は急激に彼に魅かれていった。
彼は、全ての花の花言葉を知っていて、私が迷うと必ずその日の私の気持ちにぴったりな言葉をくれる。
おばあちゃんのお見舞いよりも、私は彼に会うことが楽しみで花屋に通っていた。
きっと、これが私の初恋だ。彼には彼女がいるのだろうか?年は何歳なのだろうか?名前は?趣味は?休みの日は何をしているんだろう?もう気になって仕方がない。
初めての私には、この気持ちがいつ爆発してしまうか心配でたまらなかった。
裏切られた私の初恋の話
私の初恋はとんでもない形で裏切られた。
あれは幼稚園の年長の話。
途中から転入してきた私がそこで出会った男の子。
仮にA君としておこう。
A君は非常に格好良く、身長も高く、何だか全てが大人っぽかった(あくまで幼稚園生フィルターを通していると断っておく)。
だから色んな女の子から人気が集中していた。
女の子というのは、非常に精神的な発達が早いというのがこんな時からすでに分かる。
馬鹿みたいにぎゃーぎゃー騒いだり、女の子をからかったりするその他大勢の男の子ではなく、すでに一皮向けたような大人びた子がもてはやされるなんて、みんなすでに見る目が養われている。
これが年を経るとともに、いつのまにかみんな迷走して、とんでもないのに引っかかったりするというのはまた別の話だ。
それはともかく、私もA君にすっかり骨抜きにされてしまった。
そして、今考えると軽率にも女友達にその話をしてしまったのだ。
幼馴染ならばともかく、転校したてで仲良くなったばかりの子にそんなプライベートな話をするなんて軽率にも程がある。
その子がどうやら周囲に漏らしたらしく、あっというまにその噂が広まったのは言うまでもない。
そして私は転校そうそうなんとも居心地の悪い、「人の噂も七十五日だから、がんばれ」のよく聞くフレーズを実体験で学ぶこととなった。
今思い出してもとても苦い初恋だ。
そこで私はうかつに人を信じない子供になったのだ。
やれやれ。
そういえば、思い出した。
私がこの世に生まれて初めて好きになったのは、とある児童向け番組のキャラクターだった。
ライオンみたいのと、ペンギンみたいのと、ネズミみたいのが出て来る伝説的番組。
そのネズミに惚れたのだった。
そうか、これが私の本当の初恋か。