人の気持ち

こうも考えられた。
私の母は小料理屋を経営している。
経営事態はよろしくないが、退職した偉いさんが集う集会所みたくなっている模様。
名門ゴルフ倶楽部から近いのだ。
母は彼らのマドンナだ。
彼女はその方面で腕が立ちすぎ、貧乏なのに顔は広い。

彼にはそのconnection は有益なのかもしれず、それを是非有効活用したいため、私と恋愛して結婚したい。
だとすれば筋は通る。
何事にも手際よく手早い、人生設計も抜かりなしだろう彼をしてこの尋常ならざる年月。
本当にそんなconnectionが存在するのか、いささか疑問だけど、それならそれでもいいかなとも思う。
それが有益なのなら活かさない手はないし、もったいないし。
ただ、自分の個人的魅力のせいだと信じてた私は、けっこうおめでたい。
でた、母親。
でも、そこへちょっとした記憶が脳裡を過ぎる。
そう、あれは著名な関西の研究所での出来事。
直属の室長に嫌われて残念ながら派遣継続はナシってことで、私はぶーたれていた。
すると派遣最終日、禿の所長からメールが届いた。
「次はもう少し人の気持ちを考えてください」。
次って何の次?次の職場?。
これは不自然だ。
あの禿にこの文脈の不手際はあり得ない。
室長の非情さは周知だし、私如きにしかも最終日に言うかな?。
加えてこのわたくしは、初代秘書として研究所の立ち上げに貢献したと自負しており、周囲もそれを認めてくれていた。
しかもなかなかの人気者でもあった訳だし。
これ、自慢。
しかも当時の私は、新婚生活を間近に控え、寿退社に近いおめでた感に包まれてもいた。
そんな状況下で、しばらくは働かないかもしれない私に向かって次の職場への教訓をくださる?。
あの分刻みのスケジュールでこめかみピリピリの禿が?。
禿の仕事内容は、ざっくりとこんな感じ。
各国の研究所との交流に国内大学筋や企業との継続的な連携体制の構築。
会議の連続で禿は殆ど自室にはいない。
加えてTV出演に専門誌の取材、それに上梓する論文の執筆。
そんな禿が最も神経を尖らせていたのはファンドを左右する総務省とのやりとり。
その禿が激務の合間を縫って花嫁に次の職場での心得を説く?。
禿が私に何か怒っていたとも考えにくい。
そんな無駄は、あの禿はそんなタマではない。
「人の気持ち」ってお前が言うか?って聞き返したいくらいだ。
それとも研究員って押し並べて変人揃いだから、なにかしら理由はあるんだろうか。
未だ未解明。