母が綺麗になっていく理由
うちのお母さんは昔から綺麗。
私が小学生になった頃くらいから、他のお母さんとは違うな!と幼心に感じていた。
顔もそうなのだが、とくに脚が綺麗でいつも膝上でピタっとしたスカートをかっこよく着こなしていた。
髪は少し茶色で肩より下あたり。ゆるいパーマをかけていて、ほとんど結ぶことはなかったと思う。
授業参観に来てくれたり、運動会、文化祭、音楽会、と色々な行事に絶対に来てくれたお母さんを見た友達から「綺麗だね!」「いいなぁ~」と言われるのがとっても嬉しかった。
でも家に帰るとただの綺麗なお母さんだけではなくなるのだ。
お母さんはお父さんとはまぁ普通の夫婦であって、今思えばもはや男と女の関係ではなかったと思う。
そんな関係にため息をついている母を私は知っていたけれど、特に自分から何もしなかった。
何をすればいいのかわからなかったし、これ以上仲の良い夫婦!というのもよくわからなかったのだ。
そんなお母さんは徐々に外出が増え、夕方までに帰れない事もたまにあって、私に嘘らしき言い訳をして急いで夕飯の準備をしたりもした。
でも私はお母さんを責めたりしなかった。
お母さんが忙しく出かけて行く理由が不倫だという事までは分からなかったからである。
でもある時、出かける前に下着を選んでいるお母さんを見た。
子供ながらに決定的だな・・・と何かハッとしたのを覚えている。
そして、何か落ち着かないまま出かけて行く母を2階の窓から見ていると、少し歩いて知らない男の人の車に乗った。
お母さんはとても笑顔で乗っていた。
その夜ご機嫌になって、いい匂いをさせながら帰ってきた私はお母さんに、何処で何をしていたかハッキリと質問した。
お母さんは一瞬固まったように見え「お母さん別にもしてないよ?」と言った。
何もしてないよ、が何かしたように聞こえた。
私はそれ以上何も聞けなかった。
それから15年経つが、それ以降何も聞けないでいる。
でも家族の関係が壊れてしまうくらいなら、聞かない方がいい事だってあるのかもしれない。
強引にホテルに
今日は強引にホテルに来た。
車から見える景色を見ていればどこに行くかなんて大体分かるのだろうが、彼女は何も言わなかった。
俺には妻がいて、これは不倫なのだと言うことも隠していた、というか言わなかった。
言ってしまったら、純粋すぎる彼女とは一緒に居られない気がしたからだと思う。
ベッドの上で彼女は「初めてでごめんね」ととても恥ずかしそうにはにかんだ。
今まで強引にしてきたが、今日は割れ物を扱うかのようにとてもとても優しくした。
妻の事など頭からすっぽり抜け落ちていた俺は最低だけど、もう止められないと自分でも分かっていた。
時おり彼女は少し泣いているようにも見えたが、もしかしたら俺の汗かもしれない。
2時間くらい過ぎただろうか。
2人で一緒に入ったお風呂で、彼女は「誰にも迷惑かけないようにするから、急に一人にしないでね」と言った。
ハッとした。
今まで2年間彼女をこっそり社食で見てきたが、それは彼女も同じだった。
指輪をしている事も知っていたのであろう。
後ろめたい気持ちなんてこれっぽっちも出てこなかったと思う。
俺達はこれからなのだ。
これからなのだが、家族の事もある。
子どもの人生もあるので、投げ出すわけにもいかないし、自分自身も路頭に迷いたくない。
時折出でくるズルい考えに、彼女を捨てて逃げ出したくなるが、出来ない。
うーん、これはどっぷりハマっている証拠だな。